GOBI

あなただから

 おそらく彼は自分のタイプでは無い。ならば何処に引かれたのか説明しろと言われてもいつも言葉に詰まってしまう。
 朝、食事を取る岡田の正面に座ると、片肘を付き、ぼうっとそんな事を考えながら顔を眺めていた。
 目の前にはじっと見つめられ、どこか居心地悪そうにする岡田。

 そんな彼も三島がいる手前口には出しては来なかったが、には人一倍好意を持っていた。
 が言う“この時代”に来てから、毎日汗水たらし働く姿を見ていて、好意を持たない方がおかしい。と同時に、自分のような(どちらかというと)冴えない男を好きになってくれるなんて、絶対に無いと端から諦めていた。

(が好きになるのは三島か……尾形上等兵か)
 味噌汁を啜り向かいに座るの顔を盗み見ながらそんな事を考えていると、急に「岡田さんって」と声をかけられた。
 嬉しさを誤魔化すように、味噌汁を啜りながらの顔を見る。
「岡田さんって……かっこいいですよね」
 じっと見つめられそんな思ってもみなかった事を言われ、思わず隣に座る三島に向かい、口に含んだ味噌汁を吹き出してしまった。
「ちょっと汚い!ってか岡田さんがかっこいい!?」
 味噌汁を吹き掛けられた事と、岡田がかっこいい発言に慌てる三島。
二人での顔を見るも、発言した当の本人はいたって真面目な顔をしていた。
「三島くんとは違うんですよね……大人の魅力……下睫毛と無精髭かな」
 そこまで口にしたところで、はハッと何かに気が付き、口を抑え彼らの前から立ち去ってしまった。

 残された岡田と三島、そしてそんなやり取りを黙って聞いていた野間。
「岡田さん……俺の気持ち知ってますよね」
「よく知ってる。まあ、が俺に気があるわけないだろ」
 微かに不穏な空気が流れる中、「無精髭か……」と一人顎を擦る野間であった。



 数日後、朝飯を取りに炊事場へ行くと、今日も朝から元気に働くの姿。三島を先頭にの元へ向かうと、おはようございますの後、ぴたりとの動きがとまった。
 怪訝そうに何度も三島と野間の顔を見る。
「どうかな?髭生やしてみたんだけど」
 二人の顔には岡田のような無精髭。が髭を見ていることに気がついた三島が然り気無くアピールをする。
「ちょっと気分転換にいいかなあって」
「髭剃らないと、汚いですよ」
 ズバリと否定され、三島は驚きのあまり狼狽える。
「この前、無精髭、かっこいいって……」
「あれは岡田さん……」
 と良いながら二人の視線が合うと、お互い恥ずかしさからか、ふいっと顔を反らす。そんな二人の様子に何かを察した野間は、落ち込む三島を引きずるように、髭を剃るため食堂を後にした。

 と岡田は再び視線を合わせると、数秒の沈黙の後、岡田が口を開いた。
「あー……夕飯のあと、暇か?」
「予定は……無しです」
「部屋に邪魔しても……」
「いいですよ」



 全然タイプじゃないんだけどな。

 格好いいわけじゃないと思うのにな。



 なんで好きになったんだろう。


17/04/22

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