GOBI

軍長会議

 王騎軍陣営の最奥に建つ一際大きな天幕。今後の予定を確認するため軍長達が集まるその中で、珍しく同金が頭を抱えて悩んでいた。
「土産を買うと言ったが何がいいのやら」
 ついへ言ってしまった「土産を買って帰る」の一言。だが土産と聞いた時のあの嬉しそうな顔。あんな顔を見てしまったら買って帰らない訳にはいかない。
「人形で遊ぶ歳でもないしな。なんなら弓を貰って喜んでるんだ、その辺の小娘とはかなり違うぞ」
 楽しそうだと鱗坊も一緒になって考えるが、どんなに考えても最適解は一向に見当たらない。
「やはり髪飾りの類」
「殿も言っていただろう。みんな未鶇に対して甘いと」
 録嗚未は大きな盃に自ら酒を並々と注ぎ、ズズズと音を立てすすりながら同金の話を遮り睨む。さらにそんな物は買い与えなくていいと付け加えた。
 甘やかしているつもりは勿論誰一人として無い。ただあんな話を聞いてしまっては、心のどこかでの喜ぶ姿を見たい、一時でも過去を忘れ健やかに育って欲しいと願ってしまう。
 しかしこんな理由を述べてはみるが、他人が聞けば甘やかしていることには代わりはないのだろう。
「録嗚未は一緒に暮らしているのだから何がいいか分かるだろ」
「馬鹿か同金。そこいらの女の気持ちも分からん録嗚未がの好きな物など分かる訳がなかろう」
 同金の問に鱗坊が間髪入れずにつっこむ。違いないと笑う二人を見て、録嗚未は額に筋を浮かべた。
「…………分かる」
 怒鳴り反論するかと思いきや、静かに分かると一言。驚いた鱗坊と同金は目を丸くして録嗚未を見ると、そこには二人を見下すような、なんとも腹の立つ顔があった。
「分かるが貴様らには絶対に教えん」
「またまた、意地を張らず分からんのなら分からんと素直に言え。俺にだって分からんものを録嗚未が……」
「だから分かると言っているだろうが!」
「ガキかお前は!」
 録嗚未は盃を地面に叩きつけ鱗坊の胸ぐらを掴むと、結局いつもの取っ組み合いが始まった。こうなっては他の軍長が間に割って入ろうが止まらない。王騎がいれば一言で収まるし、騰なら録嗚未の怒りの矛先を自分に向けてなあなあにすることが出来る。しかし今この場に王騎はいない。頼みの綱の騰も本陣へ呼ばれて行ったため、録嗚未を止められる人がいない状態だ。
 そんな騒がしい中で珍しく無言の隆国。いつもならいの一番に煩いと怒鳴り散らすのだが、今日は考え事をしているようで喧嘩を止めようとしない。
「ふむ…………まあ、欲しそうにしていた物は一つ知っているがな」
 ポツリと隆国のこぼした言葉に天幕内の時間が止まった。
「忘れたのか、あれを」
「…………ああ、あれか!」
「あれだな」
「そうか、あれがあったな」
 隆国の問に同金、干央、鱗坊がある物を思い出した。しかしあれが何か分からない録嗚未は完全に蚊帳の外。四人で盛り上がる様子に段々と苛立ち始めた。
「ならばあれに合う物を俺も買っていくか」
「あれにはあれも必要だな」
「ふむ……確かにあれには」
「あれあれあれあれなんなんだ! 教えろ!!」
 自分にだけ分からない話をされて怒鳴る録嗚未に同金が一言。
「お前には教えん」
 言いながらふふ、と鼻で笑うと、今度は同金に掴みかかった。


* * *


「可愛い……」
 使いの途中、露天でが見つけた例のあれ。
「なんだい嬢ちゃん、これが欲しいのかい」
「あっ、あの、買えないです、ので……また見に来ます!」
 声をかけられ驚いたは、恥ずかしそうに慌てて立ち去る。次の目的地へ行ったのを確認して、こっそりと後をつけていた同金達は露天商に近寄った。
「どれを見ていたのだ」
 突然現れた軍長達の姿に驚き、さらに鱗坊に尋ねられた露天商は、どっと噴出した汗を必死に拭いながらが見ていたものを指差した。
 それは小さな鳥と桃の木が描かれた可愛らしい茶器。
「最近自分から進んで茶を淹れるようになったのだが……そうか」
 隆国は勉強の合間に手際よく茶を淹れるの姿を思い浮かべ、茶に興味を持ってくれたことが嬉しのか微笑む。
 そんなめったに見られない隆国の表情を間近で見た三人は思わず一歩後退りをした。
「しかし、茶器一式など未鶇にやったら録嗚未に怒られるな」
 茶碗を片手にくるくると回しながら絵柄を眺めると、鱗坊は面倒な男の顔を思い浮かべる。
「機会があれば皆で贈るか。そうだな……録嗚未には内緒での誕生日にでも」
 などと同金は言ったが、もっと早くの元に贈られることとなった。

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